LOST CRESTS 〜roots of this world〜

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最終楽章〜新たなる出会い〜

小屋の外を出ると、巫女たちの世界の空を覆っていたすべてを暗闇に返すような雲がはれかかっていた。創造の紋章の世界へ歩き出すと、その世界の民たちが遠くから近づいてきていることに気付いた。

「あの人たちは私達に危害を与えないのでしょうか?引き返すなら、今しかないと思うのですが・・・」

巫女たちの一人ウーパは、怯えている自分を悟られまいとどうにか冷静を装いながら、そう告げた。何せ、数百年以上の時を経て、争いのもとに分かれた民同士が、今ここで再び出会うのだから、無理もない。

「大丈夫です。きっとこの子が私たちとあの人たちを繋いでくれるはずです・・・。」

少女の手を引きながら歩くミーニャが、笑顔でそう言って、怯える女性の手も引いて一緒に歩みを進めていく。少女の手の力が強くなるのを彼女は感じて、その手をさらにしっかりと握った。

黒いドレスに身をまとうもう一つの世界の民たちの姿は、衣装をのぞけば彼女たちとなんら違いのない、まるで同じ世界の民同士のように見える。ただ、近づくにつれて感じ始めていたのは、普段は慈愛に満ちているのであろう巫女たちの顔立ちと、創造の紋章の世界の方から歩いてくる人たちの意思の強さを表す顔立ちが、2つの世界がそれぞれの道を歩んできた証なのだろうということであった。

もう一つの世界の民たちと、愛情の紋章を探し続けてきた巫女たちがついに2つの世界のちょうど中間に位置する場所で出会った。少女が大切に握り締めている2つの紋章は、真っ暗になったあたりを明るく照らしていた。お互いの顔も衣装のしわもはっきりと分かるくらいに。その姿から、彼女たちもまた、もうひとつの世界の巫女なのだというのが分かった。

「はじめまして、愛情の紋章の世界の巫女たちよ。私は創造の紋章の世界の巫女、マルと申します。あなたたちもこの子の話を聞いたのですか?」

どうやら、少女が愛情の紋章を持っていることを知る少し前に、彼女たちは紋章を取り戻しに来ていたようだ。

「私たちもこの子の話を聞いたのですが、どうしても信じられなかったのです。でも、この子があんまり必死にこの世界の話をするから、私達の世界で一番の高齢の私の祖母に話を聞きに戻ったのです。すると、この子が言ってることと同じことを祖母も昔聞かされたことがあったって言ってて・・・。」

「でも、この世界がはじめはひとつだったなんて、全然ピンと来ないのです。私たち、衣装の色も違うし、顔立ちも・・・。」

『それは・・・おねえちゃんたちは、この2 つの紋章ひとつずつしか持っていなかったからだよ。』

2つの世界の巫女たちが話す間を割って、少女が話す言葉はなぜか説得力があった。その傍らに光輝く2つの紋章がその言葉に力を与えているようでもあった。

『ねぇ、おねえちゃんたち・・・今日は祭典の日なんでしょ?一緒に祭典を開いたらどう?』

2つの世界の巫女たちは、それが数百年の時を経た運命だったのではないかと悟った。その瞬間笑顔を取り戻し、お互いを抱き合い、隔たれた2つの世界が数百年の時を経て交わる時を、今ここで迎えることとなった。


少女は2つの紋章をそれぞれの世界の巫女の手に戻し、「創造の紋章」に祈りをささげるもうひとつの世界の民たちと共に去っていった。

これまで「創造の紋章」に祈りをささげてきたもうひとつの世界の巫女たちは、自分たちの世界へ戻り、このことを祭壇の前で祈りをささげる民と司祭たちに伝えた。そして、この年の祭典を「愛情の紋章」に祈りをささげる世界で、共に開催することを王と司祭たちは決めた。


光り輝く2つの紋章を両手にもった巫女たちを先頭に、司祭が歌い、民衆たちがその後に舞いながら続くパレードがはじまり、「創造の紋章」は、その民たちと共に「愛情の紋章」の世界へと向かっていく。

数百年の時を経て、再び民衆たちの前に姿を見せる、真の「愛情の紋章」と「創造の紋章」への感謝に歌い、踊る祭典がついに復活するこの記念すべき日。

2つの世界の民衆は、「愛情の紋章の世界」に今まさに集まらんとしていた。

2つの世界の民衆は初めて目にする2 つの紋章の輝く光景に驚き、畏怖し、そして神々しく慈愛に満ちていながらも、創造力をかきたてる瞬間に祈りをささげ、祭典を再び始めた。


共に愛し、共に笑い、そして共に創り上げる。

2つの世界の王は、毎年行われる祭典をそれぞれの世界で交互に催すことを決め、力強くお互いの手を握った。民たちはその瞬間、これまでに体験したことのない大きな喜びに包まれ、歓喜に包まれたのだった。


そして、2 つの紋章は、異なる世界の交わりの中心にやさしく、力強く鎮座していた・・・。


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